2026-08-15
「誰を採るか」の基準がないとき——経営者がDX採用で頼ってはいけないもの
Argora編集部
DX採用の最終面接に経営者が出席する。しかし評価軸がなければ、感覚や年齢が判断基準になる。採用の失敗が繰り返される構造の根にあるものを考える。
最終面接に経営者がいるのに、誰も評価できていない
DX採用の最終面接に経営者が出席する。これ自体は珍しくない。しかし、面接が終わったあとに「どんな基準で判断したのか」を聞くと、言葉に詰まる経営者は多い。
「なんとなく使えそう」「若いしデジタルはできるでしょ」「やる気はありそうだった」——そうした言葉が出てくるとき、採用の軸は事実上存在していない。権限を持つ人が、評価する能力を持たない状態で最終判断を下している。
年齢をデジタルスキルの代替指標にする発想は根強く残っている。若い世代がスマートフォンに慣れているのは事実だが、業務プロセスの問題を発見し、ツールを選定し、社内で合意を形成しながら改善を動かす能力とは別の話だ。世代と技能を同一視したまま社内異動で人材を当てはめても、「なんとなく詳しそう」な人が困惑するだけで終わる。
困りごとと切り離されたDXは、採用基準も壊す
自社の課題から切り離されたまま「DX推進」という言葉だけが先行するとき、採用条件もその言葉に引きずられる。銀行や商工会の勉強会で聞いてきたキーワードをそのまま求人票に書き、「DXに積極的な方」「デジタル化に意欲のある方」といった文言で募集をかける。
これでは、何が解決されれば採用が成功なのかが定まらない。入社した本人も、何をゴールにすればいいかわからない。
「DX人材を採りたい」という言葉の裏に、「具体的に何を変えたいか」がないとき、採用は目的を持たない投資になる。
採用基準は、自社の困りごとから逆算してつくるものだ。「見積もりを出すまでに時間がかかりすぎている」「在庫の状況をリアルタイムで把握できない」——そうした具体的な課題を起点にすれば、「その課題に向き合える人はどんな経験を持っているか」という問いに変換できる。求人票に業務の実態を書くことの重要性はすでに論じたが、その前段として、経営者が自社の課題を言語化できているかどうかが問われる。
人への投資を、設備と同じ物差しで測らない
採用に踏み切れないもう一つの理由がある。「人を採ると固定費が3年続く」という感覚だ。
設備投資であれば、導入後の回収期間を試算して意思決定する。同じ感覚でDX人材を見ると、「1年で元が取れるのか」という問いになる。しかしDX推進担当者の効果が定量的に現れるまでには、一定の時間がかかる。
DX人材が実際に動き出すまでの一般的な流れはこうなる。
- 最初の数ヶ月は現場の業務を把握し、信頼関係をつくることに費やされる
- 半年を過ぎたあたりで、小さな改善の提案と実行が始まる
- 1年以上かけて、社内の習慣や判断基準が変化し、定着する
この時間軸を設備投資の回収計算に当てはめると、決裁が通らない。DX人材の効果は「業務の速度」「社員の判断精度」「属人化の解消」といった、売上とは一段ずれた指標で現れる。経営者がこの前提を持っていないまま採用を判断しようとすると、「高くて回収できない」という結論になる。推進体制の設計とその受け入れ構造について詳しく書いた記事も参考にしてほしいが、体制を設計する前に、経営がDX人材への投資をどう位置づけるかを整理しておく必要がある。
採用判断の質は、事前の言語化で決まる
経営者がすべきことはシンプルだ。最終面接に臨む前に、評価基準を言語化しておくこと。感覚で判断する余地を減らすには、採用担当者と事前に「何を確認するか」を箇条書きで合わせるだけでいい。
- この候補者に、現場の具体的な課題を説明させてどう反応するか
- 社内で反発が出たとき、どう動くか(具体的なエピソードを引き出せるか)
- 自分の限界をどこで認識し、どこから外部に頼るかを言語化できるか
こうした問いを用意するのは難しいことではない。ただ、「採用基準を持っていない」という事実に向き合う手間を省くと、最終面接はいつまでも「なんとなく決める場」になる。
経営者がすべての採用判断を一人で担う必要はない。外部CxOという形で評価軸を持つ人間を外から引き込む選択肢もある。採用は人を選ぶ行為であると同時に、経営者自身が「自分の会社が何を必要としているか」を問われる行為だ。その問いを避けたまま面接に出ても、判断は感覚頼みになる。基準がなければ、採用の失敗は繰り返される。
FAQ
よくある質問
地方企業の経営者がDX人材をどう評価すればいいですか
まず「この採用で何が解決されれば成功か」を言語化することが先決です。評価軸が決まれば、面接で何を確認すべきかが自然に決まります
若い人をDX担当にするのはなぜうまくいかないのですか
年齢はデジタルスキルの代替指標にならないからです。業務改善の構造を理解し、社内を動かせるかどうかは、世代とは別の能力です
DX採用で経営者が最終面接に出る必要はありますか
経営者の関与は重要ですが、評価基準が整っていない状態で最終判断を下すと感覚的な選好になります。事前に担当者と評価項目をすり合わせてから臨む方が機能します
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