2026-08-10
「非効率」と呼ぶ前に受け取るべきもの——現場の経験を失わないDXの進め方
Argora編集部
アナログな業務を「非効率」と断じてデジタル化を進めると、現場が培った判断力と責任感ごと失いかねない。経験を受け取ってから設計することが、DXを根付かせる起点になる。
アナログな業務を長年担ってきた担当者たちは、往々にして自分の働き方を「時代遅れ」だと感じている。会議の場で正直に話してくれる人もいる。「紙でやっていると恥ずかしい」「もっと早くやりたいのは自分も同じ」。
しかし、その言葉の裏に何があるかを、受け取れていないケースが多い。
「非効率」という言葉が何を消すか
ベンダーや社内のDX推進担当が「現状の業務は非効率です」と言うとき、その一言で何かが消える。
担当者が何年もかけて身につけた判断基準。取引先ごとに違う例外処理の記憶。「この案件だけは急ぎで動かす」という暗黙の優先順位。ミスに自分で気づいて修正した経験の積み重ね。
これらは、マニュアルには書かれていない。フローチャートにも描けない。担当者の中にだけ蓄積されてきた、業務の実質的なコアだ。
「非効率」と呼んだとたんに、その人が守ってきたものまで、まとめて否定してしまう。
ベンダー選定の場面では、「できます」という言葉の中身を確かめることが重要だと以前の記事で書いた。それと同じように、「改善します」という提案の前に、「今どんな判断をしているか」を聞き取れているかどうかが、DXの精度を分ける。
最後の一人が背負ってきたもの
担当者が一人しかいない業務は、中小企業では珍しくない。誰かが休んでも代わりがいない。引き継ぎ相手のないまま、何年も続けてきた。
そういう人たちは、責任感が人一倍強い。業務が滞ることの怖さを、身体で知っている。だからこそ、自分が培ったやり方を「古い」と言われると、ダメージは深い。プライドの問題ではなく、実際に守り続けてきたものへの評価の問題だ。
DXを進める側が「非効率な体制を刷新する」というフレームで入ると、担当者との信頼関係が最初から崩れる。その後にどれだけ良いツールを導入しても、使われないまま終わることが多い。システム移行を「定着」から逆算して考える視点は、こういう場面でこそ効いてくる(参照:定着を起点に置いたシステム移行の判断軸)。
担当者が「自分の経験が引き継がれた」と感じられるか。それが、DXが根付くかどうかの分岐点になる。
経験を受け取ってから、次を設計する
では、具体的にどうするか。順番の問題として整理すると、こうなる。
- 聞く——「なぜそのやり方なのか」「例外はどう判断してきたか」を、担当者本人に言語化してもらう
- 分ける——業務の核となる判断ロジックと、単に慣習化した手順を切り分ける
- 設計に組む——担当者の判断ルールを新しいフローの中に反映させ、「自分が設計に関わった」と感じてもらえる形にする
このとき大事なのは、担当者を「変えられる側」に置かないことだ。変化の当事者として立ってもらうための場をつくることが、推進側の最初の仕事になる。
アルゴラのDX伴走支援(しぼる)では、ツール導入の前段として、こうした経験の聞き取りと整理を支援している。業務の「何を残し、何を変えるか」を担当者と一緒に考えることが、出発点になっている。
アナログな業務が非効率に見えるとき、その背後には何十年もの判断の積み重ねがある。そこを飛ばしてデジタル化だけを進めると、業務の形は変わっても、現場の信頼は取り戻せない。
FAQ
よくある質問
DXで現場の反発を避けるにはどうすればいいですか
現場担当者が長年担ってきた判断基準や例外処理の経験を、事前のヒアリングで引き出すことが最初の一歩です。
アナログ業務をデジタル化するとき最初にすべきことは何ですか
「なぜそのやり方をしているのか」を担当者に聞くことです。手順の背後にある判断の理由を把握してから設計すると、ツールの定着が早まります。
ベンダーがDXを「非効率の解消」と説明するとき注意すべき点は何ですか
「非効率を解消する」という提案だけを評価するのではなく、現場の経験を引き継ぐ設計ができるかどうかを確認することが重要です。
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