2026-09-04
AIへの指示が書けないとき——それは社内の「正解」が言語化されていないサインだ
Argora編集部
AIに仕事を任せようとしたとき、適切な指示が書けないと気づくことがある。それは多くの場合、担当者ごとに判断基準がばらついている状態の現れだ。AI導入は、業務の「正解」を会社として定義し直す機会でもある。
AIにメール対応を任せてみようと試みたとき、最初にぶつかる壁がある。何をどう指示すればいいか、言葉にならないのだ。返信の口調はどのくらい丁寧にするのか。値引き交渉にはどこまで応じるのか。クレームと単なる意見の境界はどこに引くのか。問いを立てると、担当者によって答えがばらつきそうな問いばかりが並ぶ。
この「書けない」感覚を、AIの難しさのせいにするのは少し待ってほしい。
「誰かがうまくやっている」は、AIに渡せない
経験を積んだ担当者は、顧客のトーンや状況を読みながら、暗黙のうちに判断を下している。それは確かに機能しているが、言語化はされていない。「Aさんに聞けばわかる」「そこはBさんが詳しい」という状態が続いていれば、指示書を書こうとしたとき、書けるものが何もないことに気づく。
AIは指示書のとおりに動く。「いい感じにやっておいて」という曖昧な依頼は受け付けない。指示を書こうとする行為そのものが、業務の言語化を迫る試験になる。
暗黙知をどう引き出すかについては別稿で詳しく取り上げているが、ここで問いたいのは暗黙知そのものではなく、「判断基準が人によって違う」という状態が組織にとって何を意味するかだ。
正解がないのではなく、正解が統一されていない
「正解がないから指示が書けない」と言う人がいる。しかし多くの場合、正解がないのではなく、正解が統一されていないだけだ。
- Aさんは「誠実さを最優先した対応」を正解だと思っている
- Bさんは「迅速な解決」を正解だと思っている
- Cさんは「関係を壊さないこと」を正解だと思っている
どれも間違いではない。しかしそれぞれが別の基準で動いているとき、業務の質は担当者の属人的な判断に依存する。そしてAIへの指示書は書けない。
AIへの指示書が書けないとき、それは「正解を会社として定義していない」というシグナルだ。AIが苦手なのではなく、組織が標準化を先送りにしてきた結果が、ここに現れている。
AI導入を検討する前に問うべきは「どのツールを使うか」ではなく、「自社として何を正解とするか」だ。投資判断や意思決定の構造を巡る議論と地続きの問いでもある。「正解の定義」は、AI導入の文脈だけで必要になるものではない。
標準化を「AI導入の前工程」として位置づける
では、どこから手をつければいいか。順序を以下のように組むと、AI導入の作業が同時に業務標準化の作業になる。
- 判断ポイントを洗い出す — どこで「人によって違う判断」が生まれているかを列挙する。メール対応の口調、見積もりの上限、クレーム対応のエスカレーションラインなど。
- 複数の担当者に「正解」を聞いてみる — 答えが揃っている部分とばらつく部分を分ける。揃っている部分には、すでに暗黙の標準がある。
- ばらつく部分について、会社として基準を決める — これが最も時間のかかる工程だ。この対話をAI導入より先に終わらせる。
- 基準をAIへの指示に変換してみる — 指示として書けるかどうかが、標準化の精度を測るリトマス試験紙になる。
副産物として、人材育成にも使えるドキュメントが残る。新しい担当者が「Aさんに聞けばわかる」ではなく、ドキュメントを参照できる状態になる。
AI導入を検討するとき、多くの組織は「何をAIに任せるか」から考え始める。先に問うべきは「何を正解とするか」だ。その問いに組織として答えられているかどうかが、AI活用の成否を分ける。
指示が書けないと感じたとき、それを「AIが難しいから」と捉えず、「自社の業務を今定義する機会だ」と読み替えられるかどうか。その一歩が、AI導入をツール導入に終わらせない分岐点になる。
業務の言語化と標準化を伴走で進めたい場合は、しぼる(DX伴走支援)をご覧いただきたい。
FAQ
よくある質問
AIに業務を任せる前に何を準備すればいいですか?
自社として「正解」を定義することが最初の準備です。担当者ごとに判断基準がばらついている状態では、AIへの指示書が書けません。
AIへの指示が書けない場合、何から始めるべきですか?
業務の中で「人によって判断が変わる」ポイントを洗い出し、複数の担当者に「正解」を聞いてばらつきを確認するところから始めてください。
業務標準化とAI導入はどちらを先にすべきですか?
標準化を先に進めるのが順序です。正解が定義されていない業務をAIに任せようとしても、適切な指示が書けず導入が止まります。
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