2026-08-30
投資判断をコスト削減額だけで測るとき——流れを細くする改善が選ばれる理由
Argora編集部
投資判断を削減額だけで測ると、通過量を増やす改善より目に見える経費削減が優先されやすくなる。稟議に載せる数字を変えると、選ばれる施策の顔ぶれが変わる。
削れる額と、通れる量は、別の指標だ
投資の効果を「削減できる費用の額」だけで測ると、流れを速くする施策より、目に見えるコストを減らす施策が選ばれやすくなる。担当者の判断が甘いのではなく、評価軸が一つしかないことの構造的な帰結だ。
制約理論(TOC)は、事業の成果を測る指標として三つを置く。単位時間あたりに通り抜けた量(スループット)、社内に抱えている仕掛かりの量、そして運営にかかる費用の三つだ。改善の優先順位はこの順番で決まる。
スループット——通過量——を増やすことが最初の問いであり、費用を削ることはその後に来る。
人員や工程を削れば運営費用は下がる。しかし削られた箇所が制約点——全体の流れを決めているボトルネック——に近ければ、通過量はむしろ落ちる。費用は減り、売上の天井も下がる。稟議書に載った「○○万円の削減」という数字は正しいが、判断の材料としては不完全だ。
稟議に「量と速さ」を載せるとはどういうことか
改善提案を稟議に上げるとき、「この施策によって月間処理件数がいくつ増えるか」「制約工程のリードタイムが何日縮まるか」を削減額と並べて書く。それだけで、選ばれる施策の顔ぶれが変わる。
具体的には次の三段階で準備する。
- 現状の通過量を数値化する — 処理件数・平均リードタイム・ボトルネック工程の稼働率を記録する。
- 各施策の通過量への影響を試算する — 費用削減額だけでなく、制約工程の処理能力をどれだけ変えるかを見積もる。
- 削減額と通過量増加を同じ欄に並べる — 投資対効果欄を複数軸にして、判断の視野を広げる。
この三つを揃えると、同じ削減額の施策でも通過量を伸ばすものとそうでないものが区別できる。すべての部署が改善しているのに成果が動かない——通過量から問う指標設計でも整理したように、部門内の効率改善が全社の成果に直結しない理由の一つは、評価の指標が部門内で完結しているからだ。稟議の指標も同じ構造を持つ。
判断の軸を増やすと、選ばれる施策が変わる
費用削減を否定したいのではない。通過量を増やしながら費用も下げられる施策は当然ながら最優先だ。問題は、削減額しか測らない評価の場では、次の二つが区別できなくなることにある。
- 通過量を増やす施策:制約を解消する、並列処理を増やす、待ち時間を削る
- 費用だけを削る施策:担当者を減らす、ツールを廃止する、外注を止める
どちらも「○○万円の削減」として稟議に載る可能性がある。指標が削減額だけなら、二つは区別がつかない。
制約の余力を先に使い切るという考え方については増強を決める前に——制約の止まっている時間を使い切るという順番に詳しいが、「いまの制約点がどこか」を把握することが通過量の試算精度を高める前提になる。どこがボトルネックかを特定せずに削減額を計算しても、それが流れを細くするかどうかは判断できない。
稟議に載せる数字を変えることは、書式の話ではなく、何を成果と呼ぶかを組織として決め直す話だ。削れる額と通れる量を、同じ紙の上に並べる。その一手間が、改善の方向を変える。
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FAQ
よくある質問
コスト削減と通過量の増加は同時に実現できますか
必ずしも一致しない。人員や工程を削った箇所がボトルネックに近ければ、費用は下がっても通過量が落ちる場合がある。
通過量を稟議に書くには何を計測すればよいですか
現状の処理件数・平均リードタイム・ボトルネック工程の稼働率を起点にする。改善後の増加量を試算し、削減額と同じ欄に並べるのが基本となる。
制約理論(TOC)の三つの指標とは何ですか
通過量(スループット)・仕掛かり(在庫)・運営費用の三つで、エリヤフ・ゴールドラットが提唱した。改善の優先順位はこの順番で決まる。
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